2010年10月21日木曜日

映画「レオニー」

 制作、脚本、監督 松井久子

 天才彫刻家と呼ばれ、世界を舞台に活躍したイサム ノグチの母、アメリカ人・レオニー(エミリー モーティマー)を描いた日米合作映画。
 舞台は約百年前。フィラデルフィアの名門女子大から始まる。津田塾大の創設者・津田梅子も同窓で卒業しているこの時代。自立し 文学を目指すレオニーが ある日 眼を止めたのは 編集者を求める新聞の三行広告。それは日本人詩人ヨネ ノグチ(中村獅童)の出したものだった。
 レオニーの協力でヨネの詩や小説は 一躍 英米文壇で注目の的に。
尊敬が愛に変わり・・レオニーは身ごもる。それを知ったヨネは 何と、彼女を置いて日本に帰国してしまう。


 男の子を生み育てる彼女に やがてヨネから度々の誘い。それは「日本に子供を連れて来るように」と云うものだった。
「言葉も通じない国に行くなんて」と心配する母を振り切って
 レオニーは3歳になる息子イサムと共に日本へ渡る。
 しばらくは日本の美しさや東洋の文化に惹かれた彼女だったが、やがてヨネに正妻の居る事を知り 彼の用意した家を出、働きながらイサムを育てる。
 小泉八雲の妻(竹下景子)や子達等 限られた人々との交わりの中で働きながらの子育ては孤独で厳しい。しかも珍しい混血児イサムは いじめられ登校拒否。反面 大工の仕事に興味を持ち、素晴らしい家を設計する等、アート的な才能を見せる。 彼の芸術的才能を強く信じたレオニーはイサムの求めるままに
13歳の彼をアメリカに一人で帰す。

 見方によっては、此のレオニーと云う女性は 自己主張が強く かなり無鉄砲。「自由な女そのもの」とも言える生き方。当時の日本では かなり異質だったことだろう。
 又、それだけに彼女の魅力は強烈だったに違いない。
友情出演の中村雅俊が演じるお茶の宗匠が 見事な着物を誂え、彼女の肩に着せかけるシーン。

静謐な茶室の中に広がる不思議な官能的情感等、随所に見られる日本ならではの 抑えた表現と情景の美しさは レオニーの「女の魅力や強さ」と対比し 此の作品を一層魅力的なものにしている。

 やがて時代は第一次世界大戦に突入。イサムからの便りは途絶え、大切な友も招集される。
 一方のイサム。単身アメリカに渡ったものの、学校は閉鎖され、母からの便りは届かず。その心を想うと胸痛む。
 こうした苦難や、日米間の戦争さえ乗り越え 強さを身に付け、自身の「芸術の花」を開き、羽ばたくイサム。

 イサム ノグチと云えば、山口淑子さん(嘗ては李香蘭と呼ばれ劇団四季のドラマにもなられた)と結婚して居られた時期もあった。

アメリカを本拠に 幾度か来日し、沢山の彫刻、庭園設計など パワフルな仕事を残している。
パリ、ローマ、アテネ・・と世界をめぐり作品を制作、「イサム ノグチ展」も多くの地で開き、コロンビア大学名誉博士号、ニューヨーク州知事芸術賞等受けて居る。

 イサムのこうしたエネルギーと才能を見る時、母レオニーの女としての在り方と その子育てに改めて教えられる。
 現代日本の「全て親がかり。大学の入学式でさえ親が同行する過保護風潮」に、改めて母と女、親と子、愛と自我などについて考えさせられるドラマ・映画「レオニー」である。

 11月20日(土) 角川シネマ新宿他 全国ロードショー
 配給:角川映画
 ©レオニー パートナーズ合同会社