2012年6月17日日曜日

映画「グスコーブドリの伝記」



 宮沢賢治の原作に依る物語の アニメ

雨ニモ負ケズ 風ニモ負ケズ・・・

この詩と共に始まる画面に映るのは 緑の木々茂る のどかさの中に見える一軒の素朴な家。
そこは美しい山々連なるイーハト―ブ(理想郷)の森。
ブドリは優しい両親と、可愛い妹・ネリの4人で 平和に楽しく 少年らしく育てられている。

 所が ある年、この地を襲ったのが酷い冷害。
春が来ても夏になっても寒さが続き 作物は実らず、樹も草も枯れ 遂に食べるものは 全く無くなってしまった。
 森深くまで 食べ物探しに出たお父さんも、彼を探しに行ったお母さんも 強い吹雪と大雪の森からは 帰ってこなかった。
 その上、妹のネリまでも 突然現れた人に連れ去られてしまう。

こんな物語の舞台は 正に宮沢賢治の故郷・東北の姿であり、現代の悲劇「3・11」そのもの とも言えそう。

 多くの苦難に耐え、沢山の人々の支えと彼自身の努力で 学び育って行くブドリ。  

 やがてイーハト―ブ市にやって来たブドリは尊敬する博士の紹介で「火山局」で仕事をするようになる。

 このイーハト―ブの街は 大都会。 そこは まるで「中世と未来」がミックスした様な世界。
尖った屋根の高い建物が立ち並び、 空には小型乗り物が自由に飛びかい、 線路無しの電車が 街の中を走って行くなど・・

 ブドリは 街近くの火山活動が 急速に活発化する中、溶岩の流れの方向を変える仕事を手伝い 街を救うことに成功するが、次に現れたのは 別の 更に大きな火山の活発化。

 「このままでは、街も人々も全滅してしまう!!
ボクにも、出来る事が きっとある!!」 
こう奮起するブドリ・・

正に 今の日本の「自然災害」そのままを感じさせる物語。
「富士山の活動が活発化している。何時噴火するか・・しかも3・11の大震災に誘発され 各地で断層の動きが顕著化している・・」
「マグマの活動が活断層に影響し 首都直下型地震のみならず、他の断層と連動する可能性も高い・・」等。

「まるで今の日本の状況そのまま」と言えそうな物語の設定だが、この作品の制作企画が決定・開始されたのは、5年も前の事とか。

 強い恐怖感を 忘れさせてくれるのが、宮沢賢治の持つ
「愛を感じる物語」であり、又 人間の代わりに「猫の世界」とした事等・・。

更には 声の出演者達の存在も大きい。
ブドリの声・小栗旬はじめ、正にぴったりと はまった錚々たる俳優陣に依る「声の出演者達」の力。

勿論 全てを仕切り、此処まで持ってきた脚本・監督をされた杉井ギサブロー氏の存在と 支えて来られた多くの方々には 頭の下がる想いがする。

多くの人々に「故郷と人々への愛と 人間同士の絆や想いやり」を再確認させながらも 娯楽性と共に 現在の危機感を 強く感じさせるこの作品。

所で、只一つ おかしいのは この物語の中に 「事態の処理を遅らせ、適切な対応の出来ない政治家」と言う存在が 全く出て来ない事。
その分だけ 危機は速やかに処理され、市民達の安全・安心が保たれていく。
何やら現在日本への皮肉のようにさえ感じるこの作品。
 誰もが強い関心を抱く事柄をテーマにしながら、大きな「感動」を呼び起こすアニメ映画・それが「グスコーブドリの伝記」。

多くの人々が、単に楽しむ以上の何かを感じ、改めて考えさせられるに違いない。

封切 2012・7・7
丸ノ内ピカデリー他全国ロードショー

www.budori-movie.com