2010年6月10日木曜日

山本一力「江戸は心意気」

 この5月30日に朝日新聞より出版された山本一力氏の作品を読み 彼への「ファン度」と尊敬が更に大きく上昇した。
これは物語と言うより 江戸に関する多くの史実や知識。それと彼自身の人生を絡めたエッセイ集に 2編の掌篇小説からなっている。
私にとり「山本一力の小説は読み始めると、終わるまで どうしても目を離せないもの。他の事が一切ストップしてしまう危険性をはらんでいる。それを覚悟で読み始めねば」という存在。
本棚には10冊余りの作品が並んでいる上、何冊かはニュージーランドに住み、日本の書籍入手困難な娘にも渡っている。
中にはまだ読んでいない「私自身への御褒美用」作品(何かをやり遂げ 時間を持てる時に読む為)もあり、直ぐ取り出せる所に並んでいる。

 今回の本はエッセイを主としたもの。「エッセイだから 何時 どの個所でも目を離せる」と考えたのは大違いだった。彼の小説同様に ひたすら読み進めずにはいられなかったこの作品。
ともかく読者を引き込み 強い感動と共感、納得する喜び、そして莫大な知識への驚き等で 優しく、強く捕まえてしまう。
そこには現在の江戸ブームと称する現象を遥かに超えた 彼の描く「理想の日本人像」が感じられる。
又、「ここまでしっかりとした歴史事実をどうやって調べるのか。コンピューター的な頭脳と整理力の持ち主か」・・・こんな疑問への回答の一端も覗ける。
 江戸時代の庶民を描く彼、「商人の知恵、職人の技、武家の誇り したたかな江戸の気骨がそこにある!」と本の帯には記されている。 
実在した人物の生き方を記し、同時に山本氏自身の生い立ちや現代を絡めた部分が 小説とは又違う興味と共感、感動そして温かさで 小説以上の魅力に引き付けられてしまった。そして単なるエッセイとは異なるこの素晴らしさは 彼自身の生き方から出たものと 勝手に納得する。

 所で 山本氏とはラジオ「ニッポン放送」の番組審議会で度々お目に掛かるが、ともかくエネルギッシュで真直ぐ。お住まいから有楽町のニッポン放送まで お迎えのハイヤーを断り かなりの距離を自転車で来られる。しかも足元をみると下駄に柄入りの足袋。「カラフルなスニーカーが カジュアルな装いに似合って・・」と眺めたら、下駄と足袋だったのには驚いた。けれど不自然さは全く感じられない見事な調和ぶり!! 素敵な美感覚。

 度々お目に掛かる機会を持てる親しみと 私が遥かに年上というおごりもあり、熱烈なファンでありながら 図々しく意見を吐かせて頂く事もある。
例えば、先年「明治座」で公演された「大川わたり」について「脚本にも注文をお付けになるべきでは・・原作の情感が出て居なかった」等。
 今回のエッセイについても これだけの大感動を受けながらも、一節だけ 疑問を感じた。
「あいさつの本来は」の章で「メスの思考プロセスは、オスよりもはるかに現実的である・・・その行為がすぐさまご利益につながるかどうかを重視する」のくだりがそれ。
おそらくは 動物一般を示す為、あえて「女性」「男性」と書かずメス、オスの表現を使っていられるのでは と思いつつも、「女性の一人として苦言を進呈したい」私。
「確かな見方」ともいえる半面、断定されると反発したくなる。個人差、年代やその人の環境、経験等で大きく差が有るものでは?

 さて、より多くの方々に ぜひとも この素晴らしい感動の一冊を読まれた上で この一節への御感想を伺いたいものと思う。