2011年1月15日土曜日

映画「イヴ・サンローラン」



 心に深く沁み入る映画を御紹介しましょう。

 世界中の人々を魅了した 20世紀後半を代表するデザイナー イヴ・サンローラン。
彼の素晴らしい業績と並行し 終生の「公私共のパートナー」ピエール・べルジェ氏による回想と語り。
 彼らが長い年月を掛け 買い集め 楽しんだ 莫大な数の美術品の パリ・グランパレにおけるオークション終了迄を追いながら 秘蔵の写真・映像と 数々の作品を散りばめて構成されたこの映画。
「ドキュメンタリー」+「人間」の物語。 ズーンと強く胸を打ちます。 

一語一語噛みしめるように 自身の言葉で「引退表明」を行うイヴの 衰えを感じる姿で始まります。 
 次の瞬間現れるのは1957年に急死した 大デイオール帝国の「後継デザイナー」に指名され、翌年 第1回の作品発表で大喝采を集めた21歳のイヴ・サンローランの姿。 細身の長身に、はにかんだ頬笑みをたたえ、奇跡の王子様とも呼びたい程に輝くイヴ・サンローラン。デビュー・ショーの直後 感激で興奮した観客たちに追われ テラスに逃れたイヴの姿を映したこの写真。正にスター誕生の瞬間です。

 ちなみに此の作品「トラペーズ・ライン」のコレクションは、「私が初めてのパリで 観た 初めてのパリ・コレクション」。 

 「この時の 感動が その後の人生を決めた」 とも言える思い出の作品です。

  
 少年そのまま、繊細な感受性に打算や 自己利益など全く無関係なイヴ。

そんな彼を何十年にも亙り 大きな愛と知性、ビジネス感覚と政治力で支え続けて来たのが ピエール・べルジェ氏。
 徴兵され、心身症になり ディオール社から解雇されたイヴと共にメゾンを設立したのが1961年。 以来、イヴの大成功から引退、死、更には彼の回顧展その他、正にイヴ・サンローランは「べルジェ無しでは 存在しなかったかも・・」と云えそう。

 イヴのたぐい稀な才能は ファッションから舞台衣装に装置、更には独特の愛らしい女の子ルルを主人公にした漫画「お転婆ルル」を描く等 正に「天才」と呼べる反面、 余りにも繊細な神経は ストレスにさらされ お酒とドラッグに逃れ 健康を壊し 入退院を繰り返しながらも 結局は早すぎる死へと繋がってしまいました。

 ファッション好きな人にとっては 膨大な作品の与えるアイディアの凄さや驚き。 そして美しさ、サッカー競技場で行われた巨大ショーや 沢山のファッション作品に見とれ 酔う筈。
 演劇や音楽好きな人は ジジ・ジャンメールを始めとする数々の舞台衣装の煌びやかな夢にうっとりとし ミック・ジャガー達の素顔を楽しむ。

 アート好きにとっては アンディー・ウオーホールとイヴの笑いやお喋り姿や、凄いばかりの美術品、それらを飾ったパリをはじめマラケッシュ、その他の別荘やシャトウの独特の素晴らしさ 美しさに見とれ 感激する筈・・・

 変化に満ちた「美」と共に イヴとべルジェの人間ドラマは 誰の胸をも強く、大きく揺らし 何時までも 何かを残す筈。
 
 私個人としては この映画の全てが 其々の現場で体験した想い出と繋がり 様々なシーンを蘇らせ まるで自分の人生を振り返るかのように心を打ちます。
 定番と言えたインターコンチネンタル ホテルでのコレクション。

 カトリーヌ ドヌーブや ジジ・ジャンメール等多くのスターたちが姿を見せた華やいだ雰囲気のショー。
 フィナーレ直後にバックステージでマイクを向けた時の彼の優しさや声、頂いたコメント付きのサイン等ナド。
 又、彼のメゾンで御目に掛かった母上のお姿、彼の仕事デスクの上に飾られた金色の麦の穂束。
 数々の記念パーティーの風景や華やかさ、98年サッカー ワールドカップ大会直前の300人のモデルに依る大ショー、ポンピドーセンターで行われた生前の彼が姿を見せ、パリ中の有名デザイナー達も出席した回顧展・・・

 そして 昨年夏にパリで観たYSL衣装展等ナド・・・もう 数えきれない多くの想い出が次々と浮かんできます。

 改めて手元にあるコレクションの招待状や 常に「LOVE」の文字を描いたクリスマスカード、パーティーの時に頂いた刷りもの等など 感慨深く眺める私。

 今は無き天才の「人間としての苦悩」を想い 「外面の華やかさとは 対照的な内側」が誰にとっても「大きな衝撃と共感」を与えてくれる筈。

2011年の初めに 私が強く推薦したい映画こそ この「イヴ・サンローラン」です。

 公開 4月よりTOHOシネマズ六本木ヒルズ。ヒューマントラストシネマ有楽町他にて全国公開
 配給:ファントム・フィルム
 公式サイト:http://www.ysl-movie.com